シーズヒーターの使用方法上の注意点

技術資料

シーズヒーターの使用方法上の注意点ってありますか?

使用上の注意点の他に設計上の注意点もありますので両方記載してみます。
まず、シーズヒーターの設計上の注意点からいってみたいと思います。
この順序の方が、使用上の注意点が分かりやすくなると思います。

1.設計上の注意点

a. ヒーターの温度を極端に高く設定しない

ヒーターの温度と言いましたが、実際には、内部の発熱線の温度を限界値に対して余裕を持つように設計するということです。
ニクロム発熱線は、約900℃以上に長時間晒されると脆くなり、断線しやすくなります。
さらにニクロム発熱線の融点は、約1400℃と言われていますので、当然融点近くまで発熱線が上昇した場合は破損します。
新熱工業では、使用時の内部発熱線温度を計算して、余裕をもった設計をしています。

b. ヒーターの表面電力密度を出来る限り低くする

電力密度とは、ヒーターの容量をヒーターの発熱部の表面積で割った値です。
単位は、W/cm2で表わします。
ヒーターメーカーは、電力密度をSd(エスディー、Surface Density:表面密度)の記号で呼びます。
ヒーターメーカーのホームページやカタログには、ほとんどのメーカーが用途別の推奨電力密度の値を掲載していると思います。
この理由を説明したいと思います。簡単な数式が出てきますが、シャッターを降ろさずに読んでみてください。

c. ヒーターの電力密度と内部発熱線温度の関係

a. 項で「使用時の内部発熱線温度を計算して…」と言いましたが、この計算は、一般的な伝熱の計算式で行っています。

図で説明します。図-19は、シーズヒーターの断面図です。

a.シーズヒーター(両側タンシ)

シーズヒーターの断面(図-19)

記号の説明をします。

th:ヒーターの内部発熱線温度(℃)
計算で求めます。

ts:ヒーターの表面温度(℃)
使用条件で決定されます。

⊿t1:ヒーターのパイプ厚み間で発生する温度差(deg)
計算で求めます。

⊿t2:絶縁材の厚み間で発生する温度差(deg)
計算で求めます。

⊿t:パイプ厚み間と絶縁材の厚み間で発生する温度差の
合計(deg)

⊿t=⊿t1+⊿t2(deg) ―(1)式
(1)式より
th=ts+⊿t(℃) ―(2)式

⊿t1(ヒーターのシースの厚み間で発生する温度差)は、実際には設計時に計算をしますが金属の熱の伝わり方(熱伝導率)は、効率が良いので、⊿t1の値は、ヒーターを使用する上でほとんど気にするような値にはなりません。

問題は、⊿t2の方です。
「1.シーズヒーターってなんですか?」の ②電気絶縁材の項で、「酸化マグネシウムは、入手性も良く、価格も比較的安価で、電気絶縁性能も良好なので、シーズヒーターには最適な材料です…」と記載していますが、唯一の弱点が熱の伝わり方(熱伝導率)が一般の金属の約1/10以下と低いことです。その結果、⊿t2(絶縁材の厚み間で発生する温度差)が結構大きな値になってしまうことです。
さらにこの⊿t2(絶縁材の厚み間で発生する温度差)は、ヒーターのSd(電力密度)に比例して大きくなります。
⊿t2は、φ10のシーズヒーターで、Sd 1.0W/cm2で約50℃程度の値になります。(概算値)
これがSd 10.0W/cm2となるとほぼ10倍になってしまうので、約500℃程度まで上昇します。
つまり、シーズヒーターの内部発熱線温度の限界設計値を850℃と設定した場合、Sd1.0 W/cm2の場合は、ヒーターの表面温度(ts)を800℃まで上昇させても使えますが、Sd10.0 W/cm2の場合は、ヒーターの表面温度(ts)が350℃までしか使えないということになります。

「3.シーズヒーターって何に使うのですか?」のf. ガス加熱用途の項で、「これでは安心して使えない加熱器になってしまします。それを解決する方法は、ヒーターの長さを長くしてヒーターの表面電力密度を出来るだけ小さく設計する・・」と記載しているのは、以上の理由によります。

以上、a.b.c.項で言いたいことは、シーズヒーター内部の発熱線温度を限界温度に対し、余裕を持った設計をすることが、より安心して使用出来るシーズヒーターになるということです。

2.使用上の注意点

上記、①項で説明しました「設計上の注意点」と同様で、シーズヒーター内部の発熱線温度を限界以上まで上げないように使用して頂くのが安心して使用頂けることになります。

具合的な例を以下に記載します。

a. 設計値以上に温度を上げて使用しないでください

①項で説明したように、シーズヒーターの表面温度の設計値は、内部発熱線の使用限界温度に対し、余裕をもって設計していますが、設計温度以上では極力使用しないでください。
容量不足等で温度を上げる場合は、メーカーへ相談してみることを推奨します。
温度的に余裕がある場合もありますが、Sd(電力密度)が高いシーズヒーターの場合は、温度的に余裕のない場合もあります。

b. 空焚き状態で使用しないでください

液体加熱の場合は、液位が低下するとヒーターが液体から露出します。
一般的に液体加熱用途のシーズヒーターは、ヒーターの熱が液体に伝わり易いので、Sd(電力密度)を高く設計する場合が多いです。
ヒーターが露出し、空焚き状態になると、ガス加熱器の様に熱が伝わり難い空気を加熱することになりますので、ヒーターの温度が上昇します。
その結果、ヒーターが破損してしまいます。

c. ヒーターの電源を必要以上に入り切りしないでください

シーズヒーター内部の発熱線自体の破断試験では、電源のON/OFF回数と発熱線の試験温度に相関関係があることが広く知られています。
試験温度が高い場合、発熱線の破断までのON/OFF回数が少なくなります。
試験上のON/OFFのサイクル時間は、2分間ONで2分間OFFです。
よって、極端に短いサイクルで入り切りしない限り、それほど心配は不要なのですが、シーズヒーターは、極力電源をON状態のまま安定状態で使用した方が安心してご使用できます。

d. 断熱用に設計していない場合、シーズヒーター自体を断熱しないでください

シーズヒーターの周りを断熱した状態で使用した場合、ヒーターの熱は、逃げ場がなくなりヒーターの表面温度は、どんどん上昇を続けます。
最終的には、内部発熱線の融点を超える場合も想定されます。
決して、ヒーターの周りを断熱せず、逆にヒーターの熱は、逃げやすい状態で使用してください。ヒーターの発熱部のみではなく、ヒーターの口元部(リード線接続部)も含めて考慮ください。
これは、ヒーターの口元部に防湿シールを施す場合に、新熱工業では、ガラスまたは、エポキシ樹脂を使用しています。エポキシ樹脂の場合は、温度が上昇すると絶縁抵抗が極端に低下してリーク電流が発生し、ブレーカーがブレークダウンする可能性があります。
よって、耐熱温度以下で使用してください。
設計上は、自己発熱では、耐熱温度を超えないようなタンシの材質を使用していますが、ヒーター口元が、加熱源から近すぎると伝熱で耐熱温度を超えてしまう場合があります。
ヒーターの口元は、加熱源から十分離すような仕様で検討してください。
断熱材をシーズヒーターの外側に施工して放熱を抑える設計も一般的なものです。
この場合は、専用の設計および、施工することになりますので、安心してご使用ください。

e. 設計値以上の電圧をかけないでください

新熱工業では、お客様のご要求仕様に合わせてシーズヒーターの設計をしております。
ご要求仕様の中で電圧は、ヒーターの出力値を決定する値です。
設計値以上の電圧をかけることを「過電圧」と呼びますが、ヒーター出力は、電圧値の2乗で決定されますので、電圧が10%増しとなるとヒーター出力は、1.21倍となります。
当然、ヒーターのSd(電力密度)も1.21倍となりますので、設計値通りの電圧で使用した時に比べるとかなり大きな出力となり、その結果、ヒーター温度も大きく上昇します。
「過電圧」は、ヒーター破損の原因となりますのでご注意ください。

f. 真空中で使用する場合は、Sd(電力密度)を極力低く出来るようにご検討求ください。

d.項で説明しましたように真空中で使用することは、「真空断熱」という言葉がある様に、輻射でしかヒーターの熱が伝わりません。大気中でヒーターの周りを断熱材した状態に近い状態になります。
真空中で安心してヒーターを使うには、Sd(電力密度)を低くすることが必要です。

g. シーズヒーターの温度制御の注意点

「3.シーズヒーターって何に使うのですか」?で、「シーズヒーターで物を温める場合の優位点は、正確な温度制御が出来る点でしょう。
(ヒーターだけでなく、温度制御のための温度計(熱電対等)や制御機器が必要になりますが・・)」
と言いましたが、通常、シーズヒーターの温度制御には、シース熱電対を使用します。
シース熱電対は、様々な温度計の計測方法の区別からは、「接触式温度計」に区分されます。
身近なところでは、水銀式の体温計と同じくくりになります。
注意する点は、「接触式温度計」は、測りたいものの温度を指示するのではなく、温度計自身の温度が指示される点です。
水銀式の体温計を使うときには、普通、脇の下に体温計を挟んで使用します。
これが、「接触式温度計」の基本的な使い方で、このように測りたいもので包んでやらないと「接触式温度計」は、正確な温度が測れないということになります。
シース熱電対も同様に、測りたいもので、温度計を包んで使う必要があるということです。
それでは、シース熱電対はどうやって、シーズヒーターで包めば良いのでしょうか?
実際には、包むことは出来ませんが、使い方でより正確な温度が測れます。
新熱工業で試験した内容を紹介しますので、シーズヒーターをシース熱電対で制御する場合の参考にしてみてください。

まず、シーズヒーターを熱電対で温度制御する場合の代表的な回路構成を図-20に示します。

(図-18)インラインタイプのガス加熱器

シーズヒーターの温度制御回路図(図-20)

シース熱電対の使い方の注意点は、シーズヒーターへの固定方法と熱電対の外径の選定の2点です。
まずは、シース熱電対の固定方法の社内試験結果を御紹介します。
シース熱電対をシーズヒーターへ固定する場合の良い例を図-21、悪い例を図-22に示します。

熱電対固定の良い例(密着)
(図-21)

熱電対固定の悪い例(浮き上がり)
(図-22)

図-21は、熱電対の測温部(温度を計測する位置)がシーズヒーターへ密着する様にワイヤにより固定しています。良い例に対し図-22は、熱電対の測温部(温度を計測する位置)がシーズヒ ーターに密着せずに浮いてしまっています。この二つのケースでどの位温度測定結果に違いが出るか試験をしてみました。

①定電圧印加試験

試験条件は、下記です。

  • シーズヒーター外径:φ6.5
  • Sd(電力密度):5.8W/cm2
  • 電圧:153.5V
  • 電流:6.7A
  • 通電雰囲気:大気中
  • シース熱電対外径:φ0.5

試験結果は、下表(表-3)に示します。

(表-3)

熱電対
固定方法
電圧
(V)
電流
(A)
Sd
(W/cm2
ヒーター
表面温度
(℃)
備考
密着 153.5 6.7 5.8 710  
浮き上がり 153.5 6.7 5.8 640 温度が約70℃低下

シーズヒーターへ熱電対の測温部(温度を計測する位置)が密着していないと熱電対の指示温度がかなり低下することがわかります。

シーズヒーターでシース熱電対を包むような状態にするには、
・熱電対の測温部(温度を計測する位置)が密着していること。
・シース熱電対をシーズヒーターに沿わせる長さは、一般的にシース熱電対の外径の20~30倍とし、シーズヒーターの熱が十分シース熱電対に伝わる様にする。

この2点を行うことで、熱電対を包むような効果がでます。

・シース熱電対を固定するワイヤの結び目は、熱電対の反対側に持ってきます。
これは、ワイヤの結び目が熱電対の上にあると、フィンの役目をして熱電対自身の温度がシーズヒーターの温度より低くなってしまうのを防ぐためです。

・シース熱電対を固定するワイヤはあまり太くないものを選定します。太いワイヤの場合、熱電対が密着しにくくなることと、ワイヤからの放熱が大きくなることが懸念されるためです。
φ0.3以下を推奨します。

②温度制御試験

試験条件は、下記です。

・シーズヒーター外径:φ6.5
・シーズヒーター表面温度:710℃に制御(温度制御回は、図-20に準ずる)
・通電雰囲気:大気中
・シース熱電対外径:φ0.5

試験結果は、下表(表-4)に示します。

(表-4)

熱電対
固定方法
電圧
(V)
電流
(A)
Sd
(W/cm2
ヒーター
表面温度
(℃)
備考
密着 160 6.7 6.0 710  
浮き上がり 150~200 6.0~8.7 5.1~9.8 710 ・熱電対が浮いた状態で温度制御すると
ヒーターの出力が安定しない
・Sd(電力密度)は、最大で約60%増加

シーズヒーターへ熱電対の測温部(温度を計測する位置)が密着していない状態で温度制御した場合、シーズヒーターの出力が不安定で、制御困難になることが判ります。
また、シーズヒーターの出力も大きくしないと熱電対が密着している場合に比較して同じ温度に到達しないことがわかります。

以上より、シーズヒーターにシース熱電対が密着しない状態で温度制御した場合、目的の温度に制御するにはシーズヒーターのSd(電力密度)が上がってしまい、4.c.項で説明しましたようにシーズヒーター内部の発熱線温度が上昇しますので、シーズヒーターを安心して使用出来なくなる状態なってしまう可能性があります。

次にシーズヒーターの外径に対し、シース熱電対の外径を変えた場合の試験結果を示します。
試験条件は、下記です。

定電圧印加試験のみ実施しました。

  • シーズヒーター外径:φ6.5
  • Sd(電力密度):5.8W/cm2
  • 電圧:約155V(試験毎に微小な変化が出てしまいます)
  • 電流:約6.8A
  • 通電雰囲気:大気中
  • シース熱電対外径:φ0.5、φ1.0、φ1.6、φ2.2、φ3.2
  • シース熱電対固定方法:密着

φ0.5

φ1.0

φ1.6

φ2.2

φ3.2

試験結果は、下表(表-5)に示します。

(表-5)

シース熱電対外径
(mm)
電圧
(V)
電流
(A)
Sd
(W/cm2
ヒーター
表面温度
(℃)
温度差
(deg)
φ0.5基準
備考
φ0.5 155 6.7 5.9 701 -  
φ1.0 156 6.8 6.0 681 -20 温度が約20℃低下
φ1.6 156 6.8 6.0 672 -29 温度が約30℃低下
φ2.2 156 6.8 6.0 665 -36 温度が約40℃低下
φ3.2 157 6.8 6.0 640 -61 温度が約60℃低下

シース熱電対の外径が大きくなるほど一定電圧(=一定容量=一定Sd)印加時のシース熱電対の指示温度が低下するのは、熱電対表面からの熱の逃げが大きくなるので実際のシーズヒーターの表面温度より低い温度を指示するためです。
ヒータ-の外径に見合った熱電対外径を選定することが重要なことがわかります。
一般的には、シーズヒーターの表面温度を測定する場合は、上記のような影響を少なくするため、φ0.5程度の熱電対を使用するのが良いとされています。
ただし、細いシース熱電対ほど寿命が短くなりますので、使用環境や使用温度等を考慮し、最小外径のシース熱電対を選定することを推奨します。

シーズヒーター一般に関する技術資料一覧